視線を集中させる場所をつくる
住宅の玄関戸を開けて入ったときに、一番最初に見えるものは何でしょうか。マンションの間取りのように長い廊下が、奥まで延びているだけだと味気ないですね。玄関から建物奥の様子が伝わってしまったり、廊下に面してトイレがある場合など玄関先に来客がいると困ることもあります。
田園の二世帯住宅では玄関を入ると、廊下は左右に伸びてそれぞれの部屋をつないでいます。玄関正面の中央部分の壁を他の部分より少しへこませ珪藻土の色を変えて、飾棚となる板を床面近くに設置しています。花や季節の飾り物を置ける、小さな床の間のような仕掛けです。
南砺市の家でも、正面の壁に、和紙貼りの壁の色を変えた小さな窪みをつけて飾り棚としています。壁の厚みの、ほんの少しの奥行きを利用しています。こちらも玄関に対して横方向に広がる建物のため廊下は左右に伸びています。このように、視線を引きつけるような仕掛けを「アイストップ」といいます。散漫となる空間にまとまりを与えることができます。
間口の狭い敷地で、奥に長い建物の東山の家2では、玄関に入ると正面に白い壁が迎えます。その奥がリビングですが、一旦右側の方から靴をぬいで玄関ホールに上がりフロストガラス(すりガラス)の引戸を開けて部屋に入ります。玄関土間は1.5帖、玄関ホールは1帖の広さしかありませんが、壁に開けられた小さな小窓とフロストガラスの引戸で閉塞感のない玄関としています。
アイストップは壁だけではありません。久安の家では、玄関を入ると吹抜が広がり、そのまま中庭の外部空間へ視線が抜けます。その先には奥にあるリビングの外壁で視線を止め、中庭にあるシンボルツリーが目に入ります。明るく、開放的でプライベートな空間が人を迎えてくれます。建物の奥に行くためには、正面から左にそれて廊下を進むので、奥の気配は玄関から隠されています。
廊下のない家の場合は、玄関から直接室内が見えてしまいます。石引の家では玄関戸リビングが直接つながっているため、フロストガラスの引戸で仕切って、視線と玄関を開けたときの外気を防いでいます。大きな引戸は中間期に開け放して、室内外を一体化した縁側のような空間として使うこともできますが、普段は左側の壁の裏側にある内玄関につながる家族用の小さな扉から出入りすることもできます。
玄関を入ったときに、来客や、外出から戻ってきた家族を迎え入れる設えがしてあると豊かな気持ちになります。