金沢市郊外の幹線道路から500メートルほどしか離れていないが、山と森に囲まれた集落に位置している。椎の木に囲まれた500坪の敷地に母屋と2つの土蔵があり、このうちのひとつの土蔵を、定年退職に伴い帰郷する夫婦が母屋に住む両親との同居スペースを確保するために改修した。
以前は米蔵として使われていた建物を居住スペースとするために、新に水廻りを中心とした設備(給排水、電気)を入れる必要があった。土蔵に対し構造的、造作的に極力負担をかけないようにするために、片側を乳白ガラスで覆ったボックスを土蔵の中に差し込み、南の外壁に木製サッシの大開口を設けた。乳白ガラスで囲まれたボックスは、窓のないトイレ・洗面に蔵内部より採光を得ると共に、夜間は蔵内部に対して行灯のように柔らかく発光する装置となる。
土蔵は、かつて道具蔵だった北の蔵と、米蔵だった南の蔵が、ひとつの屋根でつながっています。道路側には漆喰塗りの北の蔵があります。
杉板張りの鞘で覆われている南の蔵を居住空間に改修しました。南側に縦長の木製サッシを取付け、ウッドデッキを設けました。蔵の右側には母屋へつながる渡り廊下があります。
南の蔵の夜景です。大屋根の軒裏の垂木のリズムを奇麗に見せるため、外壁には上部へと光が広がるブラケット照明をつけています。
1階はリビングスペース。2階は寝室として利用しています。床は土間コンクリートを打設した上に床組をして、無垢のカバ材フローリングを張っています。
下屋スペースの南の蔵入り口。古い雰囲気を壊さないように、スチールのフラットバーの手摺を階段部分につけました。
蔵空間に入れ子状に配置された水廻りボックス(手前からトイレ,洗面脱衣,浴室,キッチン)左側は既存のケヤキ格子戸を使用した蔵入口です。格子部分にガラスを入れてあります。
照明など新しい設備は新規に設けられた部分に取付け、既存部分に極力手を加えないようにしています。キッチンは厚さ3ミリのステンレス天板のオリジナルデザインをL型に配置してあります。
乳白ガラスで仕切られた水廻りボックスは行灯のように発光し、窓の少ない蔵空間に柔らかい光を提供しています。
2階は既存床板の上に、新しくフローリングを張りました。壁の板張りはかつて米蔵だったときの名残をそのまま残し、天井の野地板とともに、傷んだ部分のみ取り替えています。
洗面所とトイレは乳白ガラスで仕切られています。浴室はハーフユニットバスの壁と天井に、洗面所と同じヒノキ板を連続して張っています。