金沢市の伝統環境保存区域に指定されている、古くからの町家の街並みが残る通りに面するギャラリーの新築計画である。敷地奥に残る明治期の土蔵を保存することを前提に計画が進められた。金沢の若手作家を中心に、多くの作家たちを紹介することを目的にオープンしたアートスペース「as-baku」の分館として計画。工芸作品やインスタレーションなどの展示、ワークショップや工芸教室など多彩にプログラムに対応することが求められた。
前面道路に対しては壁面ラインを既存の街並みに揃え、ピロティ(屋外展示空間)奥の中庭を介して、敷地奥に残る古い土蔵を見ることができる。伝統環境保存区域に指定される金沢市の景観上重要な地区であるため、外観の色彩や形態については伝統的なモチーフを取り入れながらも、ただ単に古い形態を模したものにならないようにしている。内部空間へはピロティ側面より入り、街並みに大きなガラス面が出てこないようにした。ギャラリー内部は吹抜のある土間スペースと、フローリング敷の小上がりスペース、2階の屋外展示スペースに分かれている。
既存の街並みに揃えられた外壁ラインは、ジョリパット塗りの濃いグレーを基調に、目線に近い1階部分は化粧格子と、ピロティーの抜けた奥に既存の土蔵が見えます。建物入口は、側面のピロティ側に設けることによって、街並みに大きなガラス面が現れてこないようにしています。屋根は、道路側に落雪がないように敷地奥に向けて傾斜しています。
道路沿いの化粧格子と敷地奥の土蔵外壁、建物外壁・軒天井・サッシの外部の見掛りは全て濃色で統一しています。
ピロティからギャラ-リー内部を見たところです。道路側の内壁のみ土蔵仕上げとしています。土蔵は左官職人 竹本茂之さんによる常設展示「進化する壁」
夜間は、街並みに灯りがもれすぎないように囲まれたピロティの部分のみを照らしています。
ギャラリー内部は、土間の展示スペースとその奥にフローリング張の小上がりスペースが続いています。階段を上ると吹抜の回廊と2階の屋外展示スペースになっています。
吹抜に面する壁は 常設展示「進化する壁」
1階展示スペース。
扉を開けると、黒い空間のトイレとスタッフルームがあります。
トイレの手洗器は陶芸家 戸出雅彦さんの作品(常設展示)です。この空間のために制作していただきました。
2階回廊は、吹抜を囲むように配置してあります。ガラス越しに屋外展示スペース、その奥に古い蔵が見えます。
ギャラリー展示風景。渡辺秀亮さんの個展「石を紡ぐ」
小上がりの展示風景。「左官職人 竹本茂之の仕事」
建物背後の建物が見えないように壁面をつくり上部の採光(排煙)窓と、緩く傾斜した裏庭の芝生を見せる地窓を設けています。
常設展示「進化する壁」は土壁の塗り重ねる工程を五つの区画毎に表現しています。
敷地内に隣接する明治25年築の古い土蔵は、左官職人の竹本茂之さんによって修復されました。下見板張りの鞘の中にしっくい塗りの土蔵が静かに建っています
古い土蔵の入口部分です。