居住者のライフススタイルの変化に伴い、リフォーム会社によって主屋の改修工事が行われた。それに合わせ、土蔵を活用するために、京都から金沢へ移住する作家(木と金属を中心にアクセサリーなどを製作)の息子夫婦が制作と生活の場としてリノベーションを行った。
主屋は親世帯と共有しながら、制作のために多くの時間を過ごすこととなる工房(土蔵)を職住一体の場として、また作品を見に来る来客を考慮して独立した空間とした。ひとつの大きな空間を、水廻り部分を仕切りキッチンとトイレ空間を確保し、制作の場となる工房スペースと、ショップスペースを緩やかに区切った空間をつくりました。
敷地の一番奥に位置する土蔵は、駐車場となるオープンスペースから庭の木々の間をかいくぐってアプローチします。土蔵の入口までの誘導として庭園灯を設置してありますが、アプローチ空間はクライアントの手によって少しずつ進められる予定です。
【改修前】既存の土蔵は、物置として利用されており、建物の保存状態も比較的よいものでした。床下にはシロアリの痕跡も見られたため、床組の解体、土壌処理をした上で土間コンクリートを打設して新たな床組からやり直しました。
工房スペースからショップスペースを見たところです。右側の開口部が新たに設けた出入口。壁面沿いの展示カウンターが中央の柱に絡み、テーブルとなっています。テーブル奥はキッチンで、必要に応じて建具を開閉。階段は緩い勾配で作り直し、キッチン収納の壁面の背後に納めています。建具と家具は、蔵の荒い素材感に合わせて、ラワン合板で仕上げています。
ショップスペースの壁面沿いに展示カウンターが連続しています。キッチンとはガラスのスクリーンで仕切ってあります。
ショップ上部は吹抜となり、昼間は南側に設けた開口部と2階の窓から充分な光が入ってきます。ショップスペースは他の部分より60ミリ段差を付け、濃色の塗装をすることによって、視覚的に来客の導線をコントロールしています。
左奥が工房スペース。散らかりがちな作業台の手元がショップスペースから見えないように、タモ材で作ったパーティションで仕切り、上部には充分な照度が確保できるように直管型のLED照明を配置しています。ガラスのスクリーン越しに見えるキッチン背面収納の裏側に階段があります。
2階から吹抜を通してショップスペースを見下ろす。濃色の床面がショップスペース、白木の床面が工房スペース、ガラスのスクリーンで仕切られた部分がキッチン。ショップの照明は吹抜上部から吊るしたモーガルソケットにクリア球の白熱灯(裸電球)です。
ガラスで囲まれたキッチンは、工房の埃が入らないようにするためと、製作と生活の場が一体となった空間のため、緩やかに区切るために設けてあります。
引戸を開けるとテーブルとキッチンが連続し、生活の場となります。
キッチンの背面にある階段の下部のみ収納になっているが、階段が空間を斜めに横断し見えることによって存在感が大きくなるために、壁面全体をラワン合板の収納扉で割付けて覆い隠しています。電子レンジなどの電置場もなるべく幅を確保するために一部階段の斜めのラインが出てきましたが、黒色のメラミン化粧板で矩形に区切り見え方を調整しています。
キッチンからガラスのスクリーン越しに工房・ショップスペースを見る。キッチンはオリジナルデザインの造作キッチン。シンクは段付きにして、水切プレートが天板とフラットに納まるようにしています。シンク下はオープンにして、ゴミ箱スペースになっています。
キッチンは、使い手のオーダーに応えて、シンクの位置や大きさを検討し、引出しなどの収納も配置。シンクとコンロの間に引出式の作業台を設け、一時的な配膳スペースとして利用します。オーダーキッチンでは、既製品に無いわがままにも応えられます。
2階は既存床板の上に構造用合板を張り、床の剛性を高めることと、1階に床板の隙間から埃が落ちないようにしています。階段と吹抜には杉材の格子で手摺を設けています。
キッチンのガラススクリーンは、3枚のうち一番右側のみ鏡となっており、ショップスペースが映り込むことによって背後にあるレンジフードや冷蔵庫が目立たなくしています。