コラム044|ユーティリティは使いやすさと、生活感をほどよく隠して【追記しました】

ユーティリティからキッチンを見るコラム
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キッチンと一体になったユーティリティ

住宅のキッチンは、ダイニングやリビングに隣接する、生活の中心的な場所にある場合がほとんどだと思います。家族やお客さんがリビングに入る動線とは別の、リビングを通らずにキッチンへ行ける動線があると便利です。ユーティリティ(家事室)をキッチンへの動線の中に組み込むと、二方向からユーティリティが使えたり、キッチンと連携して空間を利用することができます。

家事動線

田園の二世帯住宅では、図面右側の階段室から真っ直ぐリビングに入るようになっていますが、トイレの横を通ってユーティリティ経由でキッチンへ行くことができます。来客中でも裏方の動線から台所へ行き来したり、お茶を出したあと、さりげなく他の部屋へ移動することもできます。キッチンはユーティリティと隣接しているため、洗濯や勝手口から裏庭への出入りなど便利です。

リビングからユーティリティが見えないように

ダイニングテーブルの前には対面式のキッチンがあります。吊戸棚は空間に圧迫感を与えるため設置せず、代わりにキッチンの背面に収納カウンターを設け、横長の窓から外の景色が見えるようにしています。キッチン横の大きな壁面の後ろはユーティリティで、冷蔵庫、食器棚などが生活空間から見えないようにしています。また、ユーティリティ横のキッチン側の小さな壁面の使いやすい位置にスイッチや床暖房、給湯器のリモコン、インターホンを設けています。

キッチンと別室のユーティリティ

神田の家でも、階段ホールからリビング・キッチンへの動線を2つ確保した回遊性のあるプランとしています。キッチンから最短距離で洗濯や物干しの家事ができます。

家事動線

左側のすりガラスの引戸は階段ホールからの入口で、右側はキッチンへ続く引戸を開けたところです。リビング・ダイニングからは洗濯物や掃除道具などは見えないようになっています。洗濯機の横に掃除用のシンクを設けると、洗濯の予備洗いの他にも、雑巾を洗ったり家事一般が便利になります。洗った雑巾を干したり、洗濯用のスプレー容器をかけておくために既製品のタオル掛けを利用して壁面に取り付けました。シンクの付いている壁面は水濡れや汚れに強いメラミン不燃化粧板(キッチンパネル)で仕上げています。こちらもスイッチ、床暖房と給湯器のリモコンはリビング側から見隠れとなる位置に設けてあります。インターホンはリビングからも見えやすい側の壁にあります。

ユーティリティからキッチンを見る

ユーティリティからサンルーム(物干し)を見たところです。この住宅ではユーティリティに分別ゴミ置場や食品庫などのストックを兼ねた部屋になっているために、物干しは隣接する部屋に配置してあります。壁面には店舗などで使われる可動棚板で自由な棚の配置ができるようにしています。

ユーティリティからサンルームを見る

サンルームには換気扇はもちろん付いていますが、2つの窓を設け、室内でも通風を確保して湿気がこもらないようにしています。洗濯物を干すと室内の湿度がかなり高くなるので、サンルームは防湿型の照明器具をつけています。

プライベートなバルコニーに続くユーティリティ

円光寺の家では、洗濯室での室内干しと、バルコニーでの外干しがスムーズにできるように配置しています。バルコニーは外部から覗かれることのないように壁で囲まれているため、寝室と一体的に利用することもできます。洗濯室で乾燥した衣類はクロゼットへ最短距離で収納できます。

家事動線

洗濯室には、布団も干せる頑丈なステンレス製の物干しを天井裏下地からボルトで取り付けています。右側のアルミサッシはバルコニーへの出口、正面壁の小窓は、隣接する階段室を経由して中庭へ風が抜けるようになっています。

洗濯室

洗濯室

寝室からプライベートなウッドデッキのバルコニーとその奥に洗濯室が見えます。カーテンを開けたままでも、周辺環境から壁で守られ、バルコニーは屋根の無い部屋のようです。

洗濯室に続くバルコニー

毎日の家事のストレスをなくすデザイン

ユーティリティの使い勝手は各家庭毎に大きく異なります。家族構成や職業によって毎日の洗濯物の量や干し方、食品のストック、洗濯物をたたむ場所など設計時の打合せを綿密におこなう必要があります。

新しく家をつくる場合には、今までの生活スタイルが変化するきっかけにもなります。洗濯機をドラム式に替えたり、今まで洗面所と一緒になっていた洗濯スペースを独立した洗濯室にするなど、今まで不便なことや不足していた空間を補って生活を便利にすることもデザインです。毎日の家事がストレスなく行えるように、今までの生活の中から問題点を見つけ出し、新しいライフスタイルをシミュレーションすることが必要です。

機能的なデザインと共に、雑然としがちな水廻り・ユーティリティを、生活空間からほどよく隠して空間の雰囲気を良くすることも大切なことです。